ケーキ作りに欠かせないもの、それは調理の目的に合った道具です。スポンジケーキやタルトやシフォンケーキには、ステンレスやシリコンのケーキ型、クッキーには抜型や口金を使うなど、さまざまな製菓道具が厨房で活躍します。レシピに忠実に、正確な材料の計量や、麺棒などを使った素早い成形など、目的に応じた製菓道具を使うことで、よりおいしいケーキ作りができます。パン作りの際にも、オーブンの温度に気を遣い、生地に合った調理方法や道具を使い分けることが大事です。一般的によく使われる製菓道具について、詳しくご紹介します。

シェフパティシエ 中村 和史

1986年ホテルオークラ東京入社。
デリカテッセンに並ぶペストリーのほか、レストランやご宴会・ウエディングなど館内で提供される洋菓子全般を担当。
シェフパティシエ就任後は「伝統と革新」をテーマに、お客様に喜ばれる洋菓子を提供すべく、日々研鑽を重ねている。


基本的なケーキの道具

◇“混ぜる”道具

お菓子作りに“混ぜる”という動作はとても重要です。材料を混ぜることで、材料同士がきちんと混ざり、生地がでこぼこせず、味や生地を均一にさせるという利点があります。スポンジケーキなどはしっかり泡立てて空気を含ませることでふんわりとした食感になり、クッキーなどの焼き菓子はさっくりと混ぜることで、サクサクした食感となります。シフォンケーキなどのふっくらした食感が大事なお菓子は、十分に泡立てた生地の状態を保てるかどうかで出来上がりが変わるほど、混ぜ方によってお菓子の仕上がりは大きく左右されます。

ホイッパー(泡立て器)

ホイッパーは、材料を混ぜたり、泡立てたりする際に使用します。ステンレス製で、泡立てるワイヤー部分とグリップは硬めで、持ち手の部分が自分の手のひらより少し長めのものだと疲れにくくなります。ワイヤーの本数は、泡立ちの状態によって使い分けます。また、ボールの直径と同じ長さのホイッパーを使うことがポイントです。

へら

材料を混ぜるためのへらはスパチュラーやスパチュールとも呼ばれ、材料をさっくりと混ぜることができます。木製とゴム製があり、木製は主にバターなどの硬い材料を練ったり、カスタードクリームなどを火にかける際などに使用します。ゴム製のへらは、ゴム部分がしなるため綺麗に混ぜることができ、ボールに残った材料をまんべんなく取れるなど、材料をすべてかき集める時に便利です。主に生クリームをすくったり、生地を型に入れたりする時などに使用します。また、ゴム製のへらによく似たシリコン製のへらは、耐熱温度が200℃以上と高く、しなるので加熱する調理にも活躍します。ホテルの厨房では、一般的にゴム製やシリコン製のへらを使っています。

ボール

ボールは、全ての材料を一気に混ぜることができ、生地を混ぜる時はもちろんのこと、生クリームやメレンゲを泡立てる時にも便利です。ボールはよく乾燥させた衛生的なものを使用します。また、卵はボールが冷たいとよく泡立たないなど、ボールに入れた食材や生地の温度に気を配ることも大切です。ステンレス製は熱伝導が良く、チョコレートの湯せんや、ゼラチンを氷水で冷やす際などに便利です。家庭用でおすすめのものは、耐熱機能があり、汚れが落ちやすく重くないものがよいでしょう。大中小のサイズが揃っていると、湯せんや泡立てなど、用途に合わせた使い分けで活躍します。

 

◇“ふるう”道具

小麦粉やココアパウダーなど、製菓で使う粉類の材料は必ずふるってから使用します。ふるったり、こしたりすることで材料の粒度が揃い、生地に統一感を持たせることができます。ダマができにくくなって生地のまとまりが良くなり、スポンジケーキなどのふんわりとした食感を生み出せるのです。また、二度ふるいにかけることで、よりふっくらとなめらかな口当たりになるのもポイントです。ふるうことで、異物の混入を防ぐことにもなります。

こし器

こし器は、ひとつの道具でふるう、こすといった作業ができる、製菓でオールマイティーに活躍する道具です。円形で底が深く、底部分にきめの細かい網目の付いたこし器は、紙を敷いた上で小麦粉などをふるったり、材料の裏ごしなどに使います。他に、柄の付いたザルのような形のストレーナー(万能こし器)もあり、網目の細かいこし器だと目詰まりするような、アーモンドパウダーなどの粒の粗い材料をふるうのに適しています。網目の細かさを選択できるアタッチメント式を使い、用途により網を変えることで、複数の用途に対応できます。

ふるい

主に家庭で使用される製菓道具としてふるいがあります。ふるいは、ステンレス製で大きな筒に持ち手の付いた、大きなカップのような形をしており、底が細かい網目になっていて、持ち手をカシャカシャと振ることで粉類をふるうことができます。ふるいの下に紙を敷き、均一になるようにふるうのがポイントです。ホテルの厨房では、ふるいにかける粉の量がとても多いので、両手で抱えて全身で振って使う大きなふるいを使用します。

こし器もふるいも、固まっている粉をふるうことで均一化でき、均等に粉が混ざり込んだ良い生地に仕上げることができます。

 

◇“量る”道具

お菓子作りは、材料の分量に小さな違いがあるだけで、出来上がりが大きく変わってしまいます。レシピの通りに、きちんと分量を守って調理することが製菓の重要なポイントだと言えます。目分量で計量してしまうと失敗の原因になります。正確な量を使うことが、味わいや食感を損なわずに、おいしいお菓子を作るための第一歩です。

スケール(はかり)

材料の重さを正確に量るために、まずボールなどの材料を入れる容器のみを置き、容器の重さは除外して目盛りを0にした状態で量ります。1g単位までの細かい重さを量れる、デジタル式のものが正確でおすすめです。可能であれば、計量できる範囲の異なるいくつかのスケールを用意することが望ましいです。ちなみに、オークラでは以前は分銅ばかりを使用していました。量りたい分量に合わせた分銅を天秤にかけて計量を行っていたため、計算が苦手な私は、計量はとても難しいと感じていたものです。

計量カップ&計量スプーン

計量カップと計量スプーンは、液体や粉類などを量ることができ、ケーキ作りに欠かせない道具です。計量スプーンは、大さじ(15g)と小さじ(5g)のサイズに分かれています。粉類は材料をさっと山盛りにすくってから、すりきり棒やへらなどで表面を平らなすりきりにして量ります。液体は縁いっぱいまで注いで量り、半量にしたい時は、計量スプーンの2/3の深さを目安に使用します。
計量カップ(200ml)は、材料の量が多い時に使用し、誤差のないよう真横から見て目盛りを基準に量ります。粉類は軽く下に打ちつけてならしてから量り、液体は平らな場所に置いて量ります。配合の全ての材料をg単位に合わせておくと間違いが無く、理解しやすいため、あらかじめレシピ帳の配合をg単位に置き換えておくと便利です。

 

◇“伸ばす”道具

パイ生地やクッキーなどの生地は、麺棒で伸ばして均一の厚みにすることで綺麗な形で焼き上がります。厚みが揃っていないと熱の通りがばらばらになり、適切な焼き加減にならず、生地のふくらみ方なども不揃いで、綺麗に焼き上げることが出来なくなってしまいます。

パレットナイフ

回転台に乗せたスポンジにクリームなどを塗る作業(ナッペ)を行う際に主に使用します。ステンレス製の包丁の刃のような部分が適度にしなるもので、18cmから25cmほどの長さが最適です。また、ペティナイフほどの大きさのものは、焼き菓子にコンフィチュール(ジャム)などを塗るのに使い、ステンレスの部分がL字形のものは、鉄板の中に流した生地を均一にしたり、チョコレートを薄くシートに伸ばすのに使うなど、パレットナイフには様々な種類や大きさがあります。

 

◇“飾る”道具

美しい見た目を作り、味だけではなく、見栄えも美味しくする飾りつけは、お菓子作りにおいて大事な要素です。デコレーションの美しさは、見た目にも食欲をそそり、味だけでなく目でも愉しむことができる、製菓でのもっとも大きな醍醐味だと言っても良いでしょう。

口金・絞り袋

クリームや生地を絞りだす際に便利な口金と絞り袋は、均一の量を出し続けることでケーキに統一感を出したり、細かいデザインも出来て、デコレーション用にも便利です。絞り袋には、生クリームのデコレーションに使うビニール製のものと、クッキーなど焼き菓子の固い生地や熱いものに使う布製があります。デコレーションや生地絞りに使う口金には様々な種類があり、切り込みが多いほど華やかに仕上がる星口金、バラの花びらを作ったりケーキの側面にフリルやウェーブをつけたりするバラ口金、均一の厚さのデコレーションが出来る片目口金・両目口金など多くの種類があります。その他、モンブランの細い糸状のクリームを作るモンブラン口金や、シュークリームやクッキーの生地の量を正確に絞り出せる丸口金など、目的に応じて口金を使い分けます。均一に絞り出すコツとしては、絞る側の手の親指に絞り袋の余分な部分を巻きつけ、口金の無い方に生地が逃げないようにしたり、袋に生地を入れすぎないようにすると、思いどおりの絞り出しができます。

ケーキの型

ケーキの型にも様々な種類があります。スタンダードな丸いケーキ型は1号につき直径3cmずつに区切られ、直径12cmの4号から始まり、24cmの8号までの大きさが一般的ですが、オークラでは最大で46cmまであります。材質はステンレス製やテフロン製などがあり、液状の生地が漏れないように一枚板から作られたタイプもありますが、底が抜けていて板が外せるようになっているタイプが取り出しやすいのでおすすめです。他にも、プリンやカップケーキなどに使うプリン型、火を均一に通すために底が深く中央に丸い穴が開いたシフォン型、タルト型やマフィン型など、シチュエーションや好みで選んで使い分けることがベストです。

 

◇“焼く”道具「型」

つい最近までは、スポンジを焼成する型は「マンケ型」と呼ばれる上下面積が異なる型(真横からみると台形に見える型)を使用しており、油を薄く塗り小麦粉を薄っすらまぶして「薄化粧」させて置くという準備がありました。
最近ではアルミ型(円柱型)を使用し、底にあたる部分と側面には紙をあてて生地を流します。
その他にも、フルーツケーキを焼く型など複数ありますが、生地によりそれぞれ型の準備が異なります。
タルトを焼く型は、日頃から良く油を馴染ませておき、余程でなければ洗剤で洗う事はしません。もちろん、乾拭きを行い、管理はきちんと行っています。
清掃後は冷蔵室で保管して、油臭がしないように管理しています。
型の材質、形状や用途でその準備は異なります。

オークラのパティシエこだわりの道具

波刃包丁

一般的にパン切り包丁とも呼ばれるこの包丁は、「波刃」という名の示すとおり、一定の刃幅で波打っている形状の刃を持っています。パンだけでなく、焼き立てのスポンジを切る際にも適しており、焼き面も中もふわふわで刃が食い込みにくい際に使うと効果的です。前後にリズミカルかつ細やかに動かすことで、刃が食い込んでいくように切ることが使い方のコツ。特にシフォンケーキなどふわふわしたものは、このコツを活かして上手に切り分けることが出来ます。断面が滑らかな状態になるように切るには、熟練が必要です。また、特殊な形状の刃を活かして、ケーキの表面に波のような模様を付けるのにも使用します。

カステラ包丁

波刃包丁と違い、カステラ包丁は一直線に歪みやたわみのない刃が付いており、主にスポンジ生地を切る際に用います。切った断面にダマなどが出来ないことが特長。押し込むように切るのではなく、歯が自然に進むように、力を入れず切ることがポイントです。大型のウエディングケーキの制作時や、長方形の大きな型で仕込んだケーキやムースなどを切り分けることにも使用し、長さを活かしてパレットナイフのように使うこともあります。私は42cmから47cmの刃渡りのものを好んで使用していますが、長いため収納に困ることが難点です。

ペティナイフ

用途によって刃渡りや身幅を使い分けるため、複数の種類が必要です。フルーツのカットや飾り切りなどに用います。刃渡り12cm程度で身幅が大きいものを使って苺の飾り切りをすると綺麗な断面になるため、私は好んで使っています。研いでいるうちに身幅が狭くなり使いづらくなることが多いため、本数は増える一方です。

ソールナイフ(16cm)

細く薄い刃をしならせて使うことができるのが特徴で、薄く伸ばしたチョコレートからエヴァンタイユ(薄い扇状のチョコレート細工)を作るのに使います。エヴァンタイユをマスターすると、その延長でチョコレートの花を作ることができます。ものによってしなり具合が異なるため、自分のソールナイフを使わないとうまく作れないことが多いです。

パティシエのパフォーマンスとナイフ

パティシエにとってなくてはならない道具のひとつにナイフがあります。刃の付いたナイフはもちろん、「パレットナイフ」のように、切るための刃が付いていなくても「ナイフ」と呼び、これ無しではパティシエの仕事は出来ません。

パティシエによって、キャリアとともに本数や種類が増えていくひともいれば、使い慣れた数本だけを使用しているにも関わらず、まるで倍以上の本数を持っているかのように巧みに使いこなすひともいます。自分の手に馴染んだ道具であれば、たとえ長さが足りなくとも、自分の背丈や手の長さを利用して、道具の足りない部分を補えるものです。道具に対する理解が早い人は、技術の会得も早いものです。

パレットナイフは大きさ、柄の形状、重さ、バランス、反り具合、さらに包丁の場合には刃の研ぎ具合に至るまで、自分の手に馴染むものと他人のものとでは、パフォーマンスに差が出るほど繊細な道具です。そのため、道具箱への仕舞い方にさえ気を遣っているほどです。他人のナイフを使うのは慣れない分緊張しますし、上手く使えないこともよくあります。

新人スタッフに対する道具の買い方についての指導も気を遣うところです。ある日突然、新人スタッフがとても立派で高価なナイフを買ってくることがあります。一方、専門学校の時に購入したパレットナイフをいつまでも買い換えないスタッフもいます。いつ、どんな道具を買うべきなのか、今の自分の業務は何か、それらを勘案して買い揃えることを勧めています。

パティシエと製菓道具

パティシエにとって、優れた製菓道具は必要不可欠です。もちろん道具の良さにこだわるだけでなく、道具を使いこなして手に馴染むよう、製菓の経験を積むことも重要です。キャリアを積み、熟練の技を磨き上げ、用途に合ったより良い道具を使いこなしていくことが大切です。

オークラのパティシエが教えるケーキのきれいな切り方

ケーキをきれいに切るためには、温度に注意が必要です。
包丁を温めると刃の表面温度が上がり、綺麗に切り分ける事が出来ますが、熱過ぎるとクリームなどが溶けてしまい、包丁の刃の厚さより厚く筋が入ってしまいます。

また刃のタイプにより切り方も変わります。
ケーキの場合も、肉や野菜、魚とそれぞれに気を付ける事があるように、決して「押し切り」はしないようにしましょう。
波刃(パン切包丁のような物)の場合は、のこぎりのように刃を前後に動かして包丁の重みを上手く活かして切ります。ギザギザの刃をきちんと食い込ませる事を意識します。
ペティナイフのように小型の包丁でも、上手に切り分ける事が出来ます。
丸いケーキの場合、等分になるように目安を付け、中心に刃を差し込み、手前側へ倒しこむように切ると、三角に切った先が下に潰れず、綺麗に仕上がります。
何より基本的に、丸いケーキは偶数に切る事が等分割する最大のコツです。
長方形のケーキは、右利きなら左端から切ります。隣に移る際に、既に切った大きさが目に入るので、目分量でもほぼ同じ大きさに切る事が出来ます。
逆に右から切ると隣に移る際、包丁が邪魔になり既に切ったケーキが見えなくなってしまいます。

しかし一番大事な事は、包丁の刃をしっかりと研いでおく事です。そうする事が何よりの工夫でありコツです。私の個人的な包丁をご紹介しますと、長尺の刃を持つ物は先端をわざと欠けさせてあります。物差しで測りながら切り揃える際に定規が固定出来ます。ペティナイフは複数本あり、フルーツの飾り切りをする物は先端が鋭利に、なおかつ刃幅は厚めにした物、その他は先端を研いで丸めてある物もあります。親指と人差し指で切る物(例えば苺を縦に半分に切るなどの際)の時に、指の股を誤って鋭利な先端で傷付ける事を避けるためです。
そのほかにも、ギザギザの刃やストレートな刃、出刃のように刃が反り返っている物、それぞれの特性を活かし使い分ける事が大事です。

意外と多いミスは自分側から見ると、真っ直ぐ下に切ったはずが、反対から見ると斜めに刃が進み切れている事があります。これは片刃と両刃の違い、そもそも包丁を握る腕が体を避けて外側に逃げるなど、体の中心をきちんと意識していないで切っている事が原因です。プロレベルではかなり細かい部分の指導も行います。
「切る」と言う技術は意外と難易度が高い仕事です。
もちろん切る物にも工夫が必要で、良く冷やしておくべきか、半解凍状態で切るなど道具とともに工夫が必要です。

ケーキの道具、焼成の型を選ぶポイント

選ぶポイントは、何人分のケーキを作るかによりサイズを決め、どの素材が適しているのか、また使いやすさはどうか、ということを考えて選ぶことが大事です。
何を重要視するかにより使用する素材も変わります。アルミ、シリコン、ステンレスなど作る内容によって異なります。例えばアルミ製は、熱伝導率の高さや耐久性に優れていますが、型離れしづらい、しかし焼き色は美しく出るなど素材によりそれぞれ特徴があるので、しっかりと選んでください。
包丁やパレットナイフなど使いやすさを考えると、手に馴染む物と出会うように、沢山の道具を見て、触り確認することが大事です。
立派な包丁ではなくても、扱いやすいものが一番思い通りになります。
自分の一番使いやすいものを様々な情報から探し、参考にして選んでみてください。

 

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