クロカンブッシュは、フランスの結婚式には欠かせない、シュークリームを円錐状に積み上げて作るお菓子です。「ピエス・モンテ」と呼ばれる、特別な時に作る工芸菓子のひとつで、パン職人や菓子職人の守護聖人である聖オノレの名前にちなんで「サントノーレ」とも呼ばれます。子孫繁栄を願う目的で作られ、ウエディングケーキとしてだけではなく、赤ちゃんの洗礼式を始め、お祝い事に関連した記念日やパーティーのために準備されるお菓子です。そんなフランス伝統のお菓子であるクロカンブッシュについて、詳しく解説いたします。

シェフパティシエ 中村 和史

1986年ホテルオークラ東京入社。
デリカテッセンに並ぶペストリーのほか、レストランやご宴会・ウエディングなど館内で提供される洋菓子全般を担当。
シェフパティシエ就任後は「伝統と革新」をテーマに、お客様に喜ばれる洋菓子を提供すべく、日々研鑽を重ねている。


クロカンブッシュとは?

クロカンブッシュはフランスのお菓子で、「ごつごつした木」を意味しており、口の中でぱりぱりと砕ける音を表しているとも言われています。「プチシュー」と呼ばれる小さなシュークリームをツリーのように積み上げ、飴やカラメルなどを接着剤のようにして固めて作るもので、フランスでは伝統的なウエディングケーキとされています。新郎新婦は、二人で木槌を使って崩しながら、列席者にクロカンブッシュを配ります。

シュークリームはキャベツの形をしていますが、「シュー」はフランス語でキャベツという意味です。フランス語でのポピュラーな言い回しに「モン・シュー(私のキャベツ)」という言葉がありますが、これは「私の愛しい人」という意味で、恋人や子どもなどに対して使われます。フランスではキャベツは「可愛い」や「愛しい」という言葉の代名詞でもあるのです。欧米では、キャベツ畑から赤ちゃんが生まれるという言い伝えがあり、キャベツは子宝の象徴だと言われています。元々は中世のスコットランドで、未婚の男女がキャベツ畑で目隠しをして恋占いをしたのが由来とする説もあります。言い伝えを基に、子孫繁栄と豊作を祈って作られたクロカンブッシュ。シュークリームは祝ってくれる人たちを指すとも言われ、高く積み上げることで天に近付くほど幸せになれると言われているのです。

クロカンブッシュの基本的なレシピ

ここでは、一般的なクロカンブッシュのレシピと作り方についてご紹介します。

【主な材料】

クロカンブッシュの主な材料として、シュー生地は水・牛乳・バター・薄力粉・卵を使い、カスタードクリームは牛乳・卵・砂糖・薄力粉を使います。シューに風味をつけるために、オレンジリキュール・ラム・キルシュなどを使うこともあります。

【作り方】

1. 水・牛乳・バター・薄力粉・卵を混ぜ、火にかけながら、へらで混ぜてシュー生地を作ります。生地をオーブンの天板に口金で搾り出し、焼き上げます。中にカスタードクリームを詰めてシュークリームを作ります。

2. シュークリームを積み上げるための土台を厚紙や画用紙などで作ります。

3. 土台の上にシュークリームを載せていきます。

4. 飴やカラメルなどでシュークリーム同士を接着します。

5. 冷えて固まったら、土台の型を抜いて外します。

6. お好みでいちごなどのフルーツやチョコレートなどでデコレーションして完成です。

【アレンジ方法】

タルトやスポンジケーキで土台を作ったり、アーモンドと飴で作られたヌガティーヌを使って様々なデザインにしたり、シュークリームの代わりにエクレアやマカロンを利用したり、シュークリームの中身をチョコや生クリームにするなどのアレンジが可能です。仕上げには、アーモンドをチョコレートなどでコーティングしたドラジェがよく使われます。一番上に星を飾れば、クリスマスツリーのように華やかなデコレーションのクロカンブッシュになります。

想いや願いの込められたクロカンブッシュ

フランスではお祝い事に合わせて作られるクロカンブッシュ。古来、このケーキには人々の幸せを願う気持ちが込められてきました。日本では、特別なウエディングケーキとして、ご新郎・ご新婦の想いの詰まった披露宴を彩ってきました。そんな人々の気持ちに想いを馳せながら、クロカンブッシュを味わってみてください。

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