ブッシュ・ド・ノエルは、日本でもクリスマスの時期にパティスリーやデパートなどでよく見られるケーキになりました。最近のクリスマスケーキの中には、デザイン性を高めたアートのようなケーキも多く見られる一方で、ブッシュ・ド・ノエルはフランスの伝統的なデザインを守りつつ、時代に合わせて少しずつ変化し、長い間愛されてきたクリスマスケーキと言えるでしょう。そんなブッシュ・ド・ノエルの由来や基本の作り方、魅力についてご紹介します。

シェフパティシエ 中村 和史

1986年ホテルオークラ東京入社。
デリカテッセンに並ぶペストリーのほか、レストランやご宴会・ウエディングなど館内で提供される洋菓子全般を担当。
シェフパティシエ就任後は「伝統と革新」をテーマに、お客様に喜ばれる洋菓子を提供すべく、日々研鑽を重ねている。


ブッシュ・ド・ノエルとは?

フランス発祥のクリスマスに食べる伝統的なケーキです。フランス語でブッシュは「薪(樹)」、ノエルは「クリスマス」、合わせて「クリスマスの薪(樹)」を意味します。その名の通り、薪を模してロールケーキにクリームやフルーツなどをデコレーションして作るケーキです。
フランスでは、クリスマスの夜にブッシュ・ド・ノエルを食べるのが一般的です。日本でもパティスリーやデパートなどで買えますが、比較的簡単に作れるので、ご家庭で手作りすることもできます。
薪の形になった由来は諸説あります。キリストの誕生日を祝い、暖炉で夜通し薪を燃やしていた様子を表現したから、クリスマスにお金のない少年が恋人へ一束の薪を贈ったことから、前の年に燃え残った薪からできる灰が火事や雷よけのおまじないになるからなど、様々な説が存在します。

ブッシュ・ド・ノエルの基本的なレシピ

ここでは、ご家庭でも作れる一般的なブッシュ・ド・ノエルのレシピと作り方についてご紹介します。

【材料 1台分(天板27×27cm)】

◇ロールケーキ生地◇

全卵(M玉)…3個(150g)

薄力粉(ホットケーキミックスでも代用可能)…40g

ココアパウダー…10g

グラニュー糖(砂糖)…55g

◇クリームの材料◇

チョコレート…60g

生クリーム…200g

グラニュー糖(砂糖)…10g

【作り方】

◇ロールケーキ生地◇

1. 薄力粉とココアパウダーを一緒にふるいで篩っておきます。

2. ボウルに卵を割り入れ、グラニュー糖を入れて混ぜ合わせ、湯せんで人肌程度まで温めます。

3. 湯せんからはずし、ホイッパー(泡立て器)でよく泡立てます。ボウルの中で生地を上から垂らしてリボンを描くと、跡がしばらく残る程度までしっかりと泡立てます。

4. 1の粉類をボウルに入れ、ボウルの奥から手前の一方向にゴムべらを動かし、ボウルを90度ほど回すことを繰り返し、粉気が無くなるまで混ぜます。

5. 天板に焼成紙を敷き、生地を流し入れてカードなどで生地を平らにならします。

6. 200℃のオーブンで12分程度焼きます。

7. 焼きあがったらすぐに焼成紙をつけたまま天板から出して、網に載せて冷まします。

◇クリーム◇

1. ボウルにチョコレートを割り入れて、湯せんで溶かします。

2. 別のボウルに生クリームとグラニュー糖、人肌程度まで冷ました1を加えて、ホイッパー(泡立て器)で八分通り泡立てます。

◇組み立てと仕上げ◇

1. 粗熱を取ったロールケーキ生地から焼成紙をはがして取ります。生地の長辺手前と奥の端をカットします。奥側の巻き終わりの端を斜めにカットすると、ロールケーキが安定し、丸く仕上がります。

2. 焼成紙の上に生地を載せます。焼き面は表でも裏でも、お好みで結構です。

3. クリームの半量を生地に塗ります。手前から奥(巻き終わり)に向かってクリームが薄くなるように塗ると、クリームがはみ出しにくくなります。

4. 手前から巻き始め、最初は芯を作るように少し強めにしっかりと巻き、その後は下に敷いた焼成紙を奥に引っ張るように巻き上げます。巻き始めは小さく折って芯を作ると巻きやすくなり、きれいに仕上がります。

5. 焼成紙に包まれた状態のまま、冷蔵庫で1時間ほどおいて休ませます。残り半分のクリームも冷蔵庫で保存しておきます。

6. 焼成紙を外し、ロールケーキの端から数センチのところで斜めにカットして、ロールケーキの上に載せて切り株部分にします。カットの際、ナイフを温めるときれいにカットすることができます。

7. ロールケーキの表面に残りのクリームを塗り、フォークで筋をつけて木の模様を描いて完成です。

以上が基本的なレシピと作り方になりますが、最近では彩りよくいちごやベリーを飾ることも多く、時代の移り変わりによりデコレーションも華やかになってきています。

ホテルオークラ東京が作るブッシュ・ド・ノエル

「クリスマスと言えばブッシュ・ド・ノエル」。そうご注文くださるお客様のために、ホテルオークラ東京では数十年前から変わらないレシピでお作りしています。お客様一人ひとりにこだわりの味がありますが、基本はチョコレートか、モカのバタークリームをベースにし、ナチュラルなスポンジ生地を使います。私が入社した1986年頃は、バタークリームのブッシュ・ド・ノエルを夜遅くまで作っており、スポンジに軽く染み込ませるラム酒の香りと忙しさがあいまって、目が回るようでした。
ブッシュ・ド・ノエルを作るときは数十本を一度に作るため、25kgものバターを使ってバタークリームを作るほど大がかりな作業でしたが、その作業を一日に10回行うこともありました。最近ではバタークリームを使ったケーキは少なくなりましたが、オークラではバターを贅沢に使い、たっぷりの砂糖と合わせたバタークリームを作り続けています。
アーモンドプラリネとヘーゼルナッツプラリネをたっぷり使った「プラリネロール」も、長い間親しまれている商品です。プラリネとバターを合わせてペースト状にし、イタリアンメレンゲと合わせたクリームを軽めのロール生地に巻き込んで仕上げます。アーモンドプラリネパウダーのサクサクとした歯触りとコアントローの爽やかな香りに加え、軽やかなロール生地に薫る微量のシナモンがとてもおいしいケーキです。これはフランスから招聘したパティシエが考案したものですが、私たちも時々味わっては「やっぱり、おいしいよね。」とみな笑顔になります。
昨今のケーキ作りでは、デザインや色彩、その組み合わせに至るまで、何かしらサプライズの要素を求められる傾向があります。そんな風潮の中、古式ゆかしいブッシュ・ド・ノエルは特別な存在と言えるかもしれません。

ストーリーとともにブッシュ・ド・ノエルを召し上がりませんか

クリスマスにご家族やご友人など大切な人と囲むテーブルに、クリスマスケーキは欠かせません。日本では一般的に、クリスマスケーキと言えばいちごのショートケーキを思い浮かべることが多いと思いますが、フランス生まれのブッシュ・ド・ノエルもまた、クリスマスケーキの定番になってきています。
クリスマスの愉しい時間の演出に、ブッシュ・ド・ノエルの由来や作り方についてのストーリーをお話するのはいかがでしょう。ケーキのストーリーを知ることで、より味わいが深まり記憶に残ると思います。年に一度のクリスマスを、思い出に残るクリスマスケーキとともに過ごしませんか?

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