「イタリアワインといえば?」という質問にはいくつか答えがあるかもしれませんが、おそらく日本では「キアンティ」がそのひとつに挙げられるでしょう。
しかし、定番でありながらワインによって全く別の顔を見せるのがキアンティの特徴でもあります。
なぜキアンティがイタリアを代表するワインのひとつとなり、世界中でその人気を不動のものとし続けるのか。トスカーナ地方の美しい丘陵地帯で生産されるキアンティの概要、歴史、カテゴリーによる違い等をご紹介いたします。

キアンティとは

イタリア中部のティレニア海に面するトスカーナ州フィレンツェ、シエナ、ピストイア、ピサ、アレッツォ、プラートの6県にわたる広範囲のエリアにおいて、サンジョヴェーゼという黒ブドウ品種をベースにして造られる、イタリアワインの顔ともいえる、最も知名度の高い赤ワインの一つです。
なおラベルの記載事項として、規定のアルコール度数より0.5~1%高いと「スペリオーレ」。
規定の熟成期間より1~2年長く熟成すると「リゼルヴァ」を記載することが可能です。
イタリアのほぼ全土で栽培されているサンジョヴェーゼは、イタリア全ワイン用ブドウ品種の中で最大の収穫量を誇ります。
上記品種を70%以上使用し造られるキアンティは、食卓を彩る飲みやすいタイプのワインですが、その生産地域があまりに広く生産量も膨大なため、味わいがバラバラでスタイルが確立されにくい点が悩みの種ともいえます。言い換えれば、バリエーションが豊富ともいえます。

キアンティの歴史

キアンティの歴史において代表的な出来事は、まず1917年、トスカーナ大公コジモ3世がキアンティの生産地の線引きをしましたが、これは原産地をそのまま呼称にした最初の例であり、既にキアンティの評価が高かったことが伺えます。
現在、大多数のキアンティは複数のワイン用ブドウをブレンドして造られますが、そのブドウ品種構成比率の先駆けとなるのが「フォルムラ」と呼ばれたもので、その内訳は「サンジョヴェーゼ70%、カナイオーロ20%、マルヴァジア・デル・キアンティ10%」となっており、1870年前後にベッティーノ・リカーゾリ男爵というワインの生産に大きな影響力を持った貴族が考案しました。飲みやすくするためにサンジョヴェーゼに白ブドウ(マルヴァジア・デル・キアンティ)を混ぜて造るワインが、当時の嗜好であった「早飲みの赤ワイン」に見事にマッチし、周囲の賛同を得たのです。
1980年代には、このことによりキアンティの国内外での需要が増え、産地を拡張し生産量も増加しましたが、量産銘柄ゆえの「安くてそれなりのワイン」というイメージが付くようになってしまいました。

キアンティのボトル

現在はあまり見かけませんが、以前キアンティは丸い瓶に藁を編んだ「フィアスコ(藁苞:わらづと)」と呼ばれる容器に入っていました。これは国内外への運搬時に割れにくくするために麦藁やトウモロコシの皮でボトルを巻いたためだといわれております。

バリエーション豊富なキアンティ

広大なキアンティ地区には様々な土壌環境が存在し、またキアンティ造りに認められるブドウ品種の増加や、醸造方法の違いによる味わいの違いなど、多様性を備えたワインとして有名なキアンティ。価格面でも、1,000円ほどから10,000円を超えるものまで、非常にバリエーション豊かな品揃えになっています。

キアンティの種類

国内外で人気銘柄となったキアンティでしたが、高品質のワインが生産される一方で、そのあまりの人気のため元々のキアンティ地区の周りにブドウ畑が次々に拡張されていき、低品質であるにもかかわらずキアンティと呼ばれるワインが出回るようになってしまいました。そのせいで「キアンティ=安ワイン」というイメージが作られてしまいました。そんな中、より品質にこだわったワイン造りを目指す一部の生産者たちが組合を結成し、拡張前のキアンティ産地を独立させ、「キアンティ・クラシコ」を名乗るようになりました。したがって現在ではキアンティとキアンティ・クラシコは全く別のワインとして扱われております。
キアンティ、キアンティ・クラシコの生産地域で栽培されているブドウ品種を挙げますと、

・黒ブドウ:サンジョヴェーゼ、カナイオーロ、コロリーノ、マンモーロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー等
・白ブドウ:トレッビアーノ、マルヴァジア

になり、これからご紹介するキアンティの種類によって使用出来る品種が異なります。

それでは、キアンティとキアンティ・クラシコの生産規定をご紹介します。

<D.O.C.G.キアンティ>

生産地:フィレンツェ、シエナ、ピストイア、ピサ、アレッツォ、プラートの6県にわたる広範囲のエリア

使用品種:サンジョヴェーゼ70~100%、白ブドウ10%まで、その他品種15%まで(例外として、キアンティ内の特定地域であるキアンティ・コッリ・セネージ等の特別な生産地域はサンジョヴェーゼ75%以上)

認定年:1967年 D.O.C. / 1984年 D.O.C.G.

最低熟成期間:収穫翌年3月1日から消費可能(コッリ・セネージ等の特定地域は各自指定あり)

<D.O.C.G.キアンティ・クラシコ>

生産地:フィレンツェ、シエナの2県内の特定地域

使用品種:サンジョヴェーゼ80~100%、推奨・許可品種の黒ブドウ20%まで(2006年より白ブドウの混醸不可)

認定年:1996年 D.O.C.G.キアンティ内より独立認定(1917年にコジモ3世がキアンティの原産地呼称として指定したエリアとほぼ一致)

最低熟成期間:収穫翌年10月1日から消費可能(リゼルヴァは収穫翌年1月1日から24ヵ月。内、瓶内発酵3ヵ月/セレツィオーネは収穫翌年1月1日から30ヵ月。内、瓶内発酵3ヵ月)

クラシコとは:特定の古い地域で造られたワインに表示される用語

ガッロ・ネッロとは:キアンティ・クラシコのボトルに巻かれている包装に「黒い雄鶏(ガッロ・ネッロ)」のマークが付いており、これは現在キアンティ・クラシコ協会の商標になっており、全てのキアンティ・クラシコに表示されている。

キアンティの味わい

キアンティの香りや味わいについては、統一性が見えにくいので必ずこうであるとは言い難いのですが、キアンティ・クラシコは濃いめの色調のものが多く、熟したベリーやプラム、そしてほのかにスパイスのニュアンスも含んだ香りで、酸味とアルコールがほどよく感じられ、柔らかく飲みやすい味わいだといえます。クラシコはもとより木樽を用いた場合などは、そこから来る特徴が現れやすく、よりしっかりとした印象になりやすいです。

そんなキアンティに合わせたい料理は、サラミ類、スコッティリア(肉の寄せ鍋スープ)、豆のシチュー、鶏肉の悪魔風、フィレンツェ風トリッパ、子豚の串焼き、トスカーナ風ペコリーノチーズ等が挙げられます。しかしながら地元トスカーナでの逸品は、やはりキアーナ牛ですので、分厚くカットしたレアステーキでお愉しみいただきたいところです。日本にいながら合わせやすいものとして、生ハムやオリーブ、チーズやトマトを使った料理、そして牛肉やジビエなど重めのメイン料理はいかがでしょうか。

おすすめのキアンティ

生産者別に挙げるなら、以下の通りになります。

「ファットリア・デル・フェルシナ」

サンジョヴェーゼらしいミネラルとブラックチェリーのような果実味に溢れるキアンティ・クラシコ・ベラルデンガが、並級のクラシコとしては特に素晴らしい。

「フォントディ」

サンジョヴェーゼ至上主義を掲げ、リゼルヴァ級の上質なワインがキアンティ・クラシコとして造られている。

「アンティノリ」

ペポリ、バディア・ア・パッシニャーノといったキアンティ・クラシコを生産する大貴族。
その他にティニャネッロとソライアの2大スーパータスカンを生産している。
※スーパータスカンとは:キアンティ・クラシコ地区を含むトスカーナ州全域で生産者される規則にとらわれない自由な発想で生み出したスタイルのワインのこと。
例)ティニャネッロ(サンジョヴェーゼ80%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%)
  ソライア(カベルネ・ソーヴィニヨン75%、サンジョヴェーゼ20%、カベルネ・フラン5%)

まとめ

伝統的手法と革新的技術を両立させ、品質とイメージの向上に成功したキアンティ。ラベルに「キアンティ」の記載があれば安心するのは、地元生産者たちの努力以外の何物でもありません。今回ご紹介した内容はキアンティのほんの一部。ご興味が湧きましたら、ワインショップでキアンティに触れ、書物を紐解き、トスカーナ地方を旅されてみてはいかがでしょうか。魅力溢れるキアンティの世界が、あなたを迎えてくれることでしょう。

(株式会社ホテルオークラ東京 企画広報課)

 


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