アシスタントチーフソムリエ:岡田 昌男

ワインのみならずカクテルや日本酒にも精通し、利酒師、HBAシニアバーテンダーの資格も持つ。骨董品をはじめ、古き良き時代の物にも造詣が深い。


アリゴテとの出会い

私がホテルオークラで働き始めた1980年代、バー配属のバーウェイターは「オーキッドバー」「バーハイランダー」「スターライトラウンジ」「宴会バー」などで5年間の下積み修行を経験しました。
皆が先輩バーテンダーのシェーカーを振る姿に憧れ、日々、身嗜みに始まり、備品の取り扱い、氷の割り方、カクテルレシピの暗記等々、バー業務を一生懸命身に付けようと必死でした。
当時、レストラン・バーでよくオーダーされるカクテルのトップ10の中には「マティーニ」や「マンハッタン」の他、「キール」や「キール・ロワイヤル」などがありました。カクテルはシンプルなものほど難しいと言われます。「甘いと言われては駄目だ!クレーム・ド・カシスの分量に気をつけなさい」と指導され、作り方や由来などを教わるなか、「キール」に使われる白ワインは何でも良いわけではなく、アリゴテが本来使われるべきワインであることを学びました。白ワイン用のブドウ品種では、シャルドネやリースリング、ソーヴィニヨン・ブランなどはよく耳にする馴染みの品種でしたが、アリゴテについてはよく知らず、その言葉の響きから、どんな品種なのか大変興味が湧いたことを覚えています。

懐かしの定番カクテル「キール」

「キール」はすでに多くの人に愛され知られているカクテルですが、「キール・ロワイヤル」と並び、食前酒として飲まれるカクテルの定番で、カシスのリキュールと白ワインを合わせたものをいいます。「キール・ロワイヤル」は白ワインの代わりにシャンパーニュをベースにしたものです。ベースリキュールを加える量はお店により違いますが、オークラでは少々辛口に仕上げます。

このカクテルを考案したのは、フランス、コート・ドール県ディジョン市の市長を長年務めたキャノン・フェリックス・キール氏。戦後、地元の特産であるカシスリキュールとアリゴテを使ったワインが売れて経済が良くなるようにと創作されました。市のPRイベントで何度も紹介されるうちに世界中に広まりましたが、日本でもフレンチレストランが全盛の70年代~90年代にかけ、ワインブームなども追い風になり人気カクテルとなりました。桜色でアリゴテの爽やかな酸味とカシスリキュールの柔らかな甘みのバランスが絶妙なこのカクテルは、食前酒に最適であるとして人々に愛され定着しました。オークラのフレンチレストラン「ラ・ベル・エポック」でも毎日、何杯もご提供したものでした。

「AOCブーズロン」認定の立役者

アリゴテの可能性を信じ育て上げ、INAO(原産地呼称委員会)にAOC認定の働きかけをした立役者であり、DRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)共同経営者でもあるオベール・ド・ヴィレーヌ氏が1971年にブーズロン村に設立した「ドメーヌ・ドゥ・ヴィレーヌ」を訪ねる機会がありました。このドメーヌは、コート・ドールの南、コート・シャロネーズ地区ブーズロン最北部の日当たりの良い土地に10haほどを所有し、ビオロジック農法(農薬、除草剤、化学肥料を一切使用しない栽培方法)による手造りのワインを生産しています。自然酵母による発酵や、大樽とタンクをうまく使い分けながらオーク樽のニュアンスが最小限になるように注意を払うことで、ブドウ品種の特性を生かしたワインを表現しています。アリゴテ本来の特徴が巧みに引き出されており、純粋で爽快な酸味と香草を思わせる香りとのバランスが絶妙な、ピュアでミネラル感のある溌剌とした印象のワインとなります。現在はヴィレーヌ氏の妹の御子息であるピエール・ド・ブノワ氏がオーナーを務めていますが、「ブドウとテロワールの個性をあるがままに表現したい」という伯父の思いは大切に引き継がれています。かつて名声にはほど遠いアリゴテの産地であったこの土地は、先代の尽力により、1979年に「ブルゴーニュ・アリゴテ・ド・ブーズロン」がAOCに認定されました。現在ではシャルドネが高級白ワインの定番として君臨していますが、ここブーズロン村は、古くから人々に愛され続けるアリゴテ最良の産地として、揺るぎない地位を築いています。1997年には「ブーズロン」がアリゴテ唯一のAOCに昇格、認定されました。

「アリゴテ・ヴェール」と「アリゴテ・ドレ」

「ブルゴーニュ・アリゴテ」は気軽に飲める酸の際立つワインとして知られ、「アリゴテ・ヴェール」と呼ばれる品種で造られます。ブドウの房は緑色で、フレッシュな酸が印象的なワインはカシスリキュールとの相性が良く、カクテル「キール」に使われる白ワインとして世界中に広まりました。
アリゴテ100%で造るAOC「ブーズロン」で使用される品種は「アリゴテ・ドレ」と呼ばれますが、これは古くから栽培されている品種であり、樹齢も年数が経ったものが多く、果粒は「アリゴテ・ヴェール」よりもひと回り小さく、黄金色の房を実らせます。酸味が比較的優しく味わいが複雑なため、深みのある味わいのワインに仕上がります。

料理と合わせて

今回ご紹介した「ブルゴーニュ・アリゴテ」は青りんごや柑橘系などのニュアンスを持ち、酸も大変元気なため、レモンなどを添えるお料理、天ぷら、焼き野菜、蒸し野菜などの野菜全般、魚の塩焼など魚介類全般、しゃぶしゃぶ、焼き鳥、アクアパッツァ、パスタなどとの相性が抜群です。一方、AOC「ブーズロン」など酸が少し穏やかで蜂蜜やミネラルのニュアンスを感じさせるワインは、寿司、しゃぶしゃぶなど和食全般、エスカルゴ、白身魚のムニエルなど、優しい味わいのお料理とともに愉しんでいただけると思います。

まとめ

アリゴテを使用したワインはバリエーションに富み、シャルドネを使用したワインに比べて味わいや価格も一歩控えめな印象がありますが、和洋中の料理全般に合いますし、カジュアルな雰囲気でも場を引き立ててくれる万能なワインだと思います。

アリゴテを使用したワインの生産者としては、上記の「ドメーヌ・ド・ヴィレーヌ」の他、「ルイ・ジャド」や「オリヴィエ・ルフレーブ」などもおすすめです。他にも「ドメーヌ・ラモネ」は白ワイン造りでは右に出るものはいないと言われるほどの名手ですが、その名門の「ブルゴーニュ・アリゴテ」は気軽に試せる価格帯のワインです。反対に、「ドメーヌ・ドーヴネ」は、DRCの共同経営者であった、かの有名なマダム・ルロワ(ラルー・ビーズ・ルロワ)が、コート・ド・ボーヌ地区サン・ロマン村において個人所有するドメーヌです。ルロワ家のお屋敷の絵が描かれたラベルが印象的なこのワインは、アリゴテ100%から造る究極のキュベとなっています。値段はかなり高価ですが、ワイン通垂涎の一滴、期待を裏切りません。別タイプとして「クレマン・ド・ブルゴーニュ」(シャンパーニュ同様、瓶内二次発酵方式により造られるスパークリングワイン)の中にも、メーカーによってはピノ・ノワール、シャルドネのほか、アリゴテを高い比率で使用したスパークリングなども造られています。

食事のシチュエーションに合わせ、様々なタイプのアリゴテワインを愉しんでいただけると幸いです。


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ワインとともにご自宅でお愉しみいただけるお食事もご用意しております。

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