ワインを選んだり飲んだりするときに、知っておきたいのがそのワインの格付けです。ワインのエチケット(ラベル)をよく見てみるとAOCと書いてあることがあります。フランスの伝統的なワイン産地には、ブドウ品種や栽培方法、醸造方法にそれぞれのスタイルがあり、そのような産地の個性を守るために定められている規定がAOC(原産地統制名称)なのです。AOCはフランスワインのトップカテゴリーであり、詳しく知っているとワインを一層愉しむことができます。そのAOCについて紐解いていきましょう。

シニアソムリエ:菅原 淳美

酒類全般に関する幅広い知識を持ち、利酒師、テキーラマエストロの資格も持つ。数々のソムリエコンクールに挑戦中の期待の若手ソムリエ。


フランスワインの格付け「AOC」とは

フランスではワイン法が国によって定められており、産地ごとのワインの伝統を守るため、ブドウ品種だけでなく、ブドウが育つ土壌、栽培・醸造方法などを規制して、その土地に基づくワインの個性を明確にして品質を保つ役割を果たしています。スパークリングワインを例に挙げると、シャンパーニュ地方でAOC規定を遵守して造られるスパークリングワインのみが「シャンパーニュ」を名乗ることが許されています。このことは、フランス国内の他の産地では造ることができないワインがシャンパーニュ地方で生産され、確固たる地位を築いてきたことを物語っています。

「AOC」の格付けは全部で4段階あり、上位からAOC(原産地統制名称)、A.O.V.D.Q.S.(上質指定された原産地名称)、Vin de Pays(フランス産限定地域のワイン)、Vin de Table(EU産やフランス産など輸入果実も使用したブレンドワイン)で格付けされてきました。この「AOC」による分類は2008年に見直され、2009年からは「AOP」(原産地呼称保護)という新しい制度が導入され、カテゴリーもシンプルに3段階に変更されました。上位よりAOP(品種から熟成まで細かな規定がある原産地呼称保護ワイン)、IGP(産地限定の品種で、アルコール分最低度数の規定がある地理的表示保護ワイン)、Vin de France(産地情報無しのブレンドワイン:2012年以降の呼称)で区別され、フランスワイン全体の共通指標として用いられています。各アペラシオン(産地)の保護団体が仕様書を策定しており、フランスおよびEU圏内ではすべての関連業者がこの仕様書を遵守することが求められているため、独立した検査機関が仕様書の遵守状況を厳しく検査しています。

ワインの格付けの必要性

なぜ、このようなワイン法が作られたのでしょうか。19世紀後半、フィロキセラなどの病害虫が発生した後、他産地とブレンドしたワインや「ボルドー」「ブルゴーニュ」「シャンパーニュ」などの有名産地を詐称するワインが市場にあふれ、フランスのワイン生産者は販売低迷と価格下落という困難に直面しました。事態を打開するため、フランス政府は1905年に産地詐称を防ぐ法律を制定しましたが、その後も市場の混乱は収まらず、品質の悪いワインが有名産地の名を騙って横行しました。このため国を挙げての取り組みとして、ワインの品質維持のため1935年に法律でAOCが制定されたのです。

フランスの格付けは地域ごとにも分かれる

例えば、ブルゴーニュ地方では基本的に、赤ワインはピノ・ノワール、白ワインはシャルドネという単一のブドウ品種を使ってワインを生産していますが、地域ごとのテロワール (土壌やそれを取り巻く環境)によって生まれるワインの性質は少しずつ異なってきます。フランスでは一般的に、テロワールがワインの個性を造ると考えられており、この概念はAOC制度の大きな基盤になっています。また、広大な畑を様々な生産者が分割して使用することが一般的なため、テロワールごとに異なった個性がワインに現れやすく、生産者それぞれで独自の基準も設けています。代表的な地方の格付けとしてブルゴーニュやボルドーがありますが、アルザス地方のワインも細かい格付けがされています。アルザスは1962年にAOCとして認定されました。ひとつの品種から醸造する場合はエチケットに品種名を表示する義務がありますが、複数品種のアッサンブラージュの場合はエーデルツヴィッカー、ジャンティなどと表示します。AOCアルザスとして認定されたワインは、アルザスの全ワイン生産量の74%を占め、そのうち白ワインが92%と大半を占めています。AOCアルザスよりも厳しい規定を満たした場合は「リュー・ディー」の名前を付けることができます。このように地域ごとの特性を生かした美味しいワインを生産するため、地域によってさまざまな厳しい格付けが行われています。

AOCによるワインの格付けの種類

AOC/AOP(2009年以降)の格付けの中で、基準が最も厳しいと言われているのがボルドー、シャンパーニュ、ブルゴーニュです。特にシャンパーニュでは指定されたブドウ品種だけではなく、製造方法についても厳しい規定が設けられています。例えば、「ブドウ品種はシャンパーニュ地区で収穫したシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエを使用すること」「一番搾りは4,000キロのブドウから2,050リットルの果汁を搾る」といった細かな規定が多く設定されています。こうした規定のうち、どれか一つでも満たさないとAOCシャンパーニュを名乗ることができません。

次に厳しい条件のカテゴリーがIGPになります。IGPのカテゴリーには、その下のカテゴリーであるVin de Tableよりも質の高いワインを差別化するという目的があります。IGPと見なされるためには、指定地域の指定品種で造られなければなりません。ワインをブレンドしてはいけませんし、1ha当たりの生産量や最低アルコール度数も決まっています。IGPは従来のAOCにおけるVin de Paysに相当していて、ブドウ品種や生産地域などが定められており、Vin de Tableは特定の生産地域の表示がないテーブルワインとなっています。

最も下のカテゴリーは、Vin de Table / Vin de Franceです。これらは多くが早飲みタイプで、シンプルで値段も手頃なワインです。AOPの規制の下では、以前は許可されていなかったヴィンテージや品種をエチケットに記載することをこのカテゴリーのワインに許可しています。

このほか、AOCにのみ存在していた格付けとして、A.O.V.D.Q.S.と呼ばれるものがあります。これは2008年までの格付けでAOCとVin de Paysの中間にあたるワインです。この格付けは1950年代に導入され、主にロワール地方と南西地方のワインが対象になっていましたが、2012年にこの格付けが廃止になったため、その後はAOPの資格を取得するかIGPに格下げするか選択することとなり、生産者にとっては難しい選択となっています。

まとめ

AOC/AOPという厳しい規定があるからこそ、私たちはワイン一本一本の個性や品質を愉しむことができます。AOC/AOPが分かるようになると、ワインの奥深い世界が見えてきます。ワインのエチケットによく目を凝らし、AOC/AOPの世界を覗いてみてはいかがでしょうか。


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