イタリアのワインは300種類以上の土着品種があります。沢山の土着品種の中でも一際精彩で世界の名だたる高級ワインと同列に掲げられるバローロは、ネッビオーロ種から造られます。ネッビオーロ種はイタリアワインの中でも重要な存在で、かつイタリアワインの誇りでもあります。カベルネ・ソーヴィニヨン種やシャルドネ種などの国際品種のように世界中の土地での栽培は難しい品種でもあり、そこにネッビオーロ種の面白さとネッビオーロ種から造られるバローロ、バルバレスコが際立つ理由があります。ネッビオーロ種は野生的で酸がきつく荒れ狂うようにタンニンが強いです。世界標準の嗜好性に倣って栽培するのと、イタリアの地域食文化と合わせて創り上げたネッビオーロ種のワインの仕上がりとでは、味わいに若干のずれがあるように思えます。語弊を恐れずに述べるのであればガラパゴス化とでも述べましょうか。今回は、国際品種との違いも少し触れながらネッビオーロ種のワインを述べたいと思います。

ソムリエ:上手 忍

得意分野はイタリアワイン。世界のワイン文化史にも詳しい。趣味はワイン醸造所や牧場をめぐること。


ネッビオーロとは

ネッビオーロ種はピエモンテ地方の最高級品種として知られ、最高級赤ワインのバローロやバルバレスコの原料にもなっています。イタリア北部で栽培されるアルバ原産の土着品種でピエモンテ州やロンバルディア州、ヴァレ・ダオスタ州で生産されています。その歴史はアルバ原産といわれ古い文献は13世紀には確認されています。
ネッビオーロの名前の由来はイタリア語の霧を意味するネッビアで、ブドウ表皮が大量の蝋分に覆われて霧のように見えること、また成長がゆっくりなため、晩熟でその収獲時期が秋の霧の季節に行うことなどという説があります。また最も古い説では高貴を意味するノービレが語源で、ふくよかでたくましく甘いワインになるブドウ品種という意味になるそうです。所説ありますが、聞いただけでその故郷の風景が目に浮かんでくるような、大地のロマンが感じられる雄大な印象の名前だと思います。
ネッビオーロは、標高300メートルから450メートルの耕地で栽培されますが、扱いも難しく、樹木自体も脆弱です。ブドウの成熟が遅い上に寒さにも弱く、また実が非常に密集しているため、降雨量が多い時期や湿気が高くなるとカビやすくなります。そのため、風通しがよいことも栽培地の条件に含まれてくるのです。
オーストラリアやアメリカ、日本でも栽培を試みていますが、突出して世界中のワインファンから評価されているネッビオーロのワインはまだ誕生していません。
北イタリアの特にピエモンテ州には、バローロ、バルバレスコなる世界が認める銘醸ワインがあります。大陸性気候とピエモンテの大地の形状、土壌が一致してこそネッビオーロという難しいブドウを世界最高峰のワインの1つとして育てることができる限られた土地といっても良いでしょう。
ローカル品種で限られた北イタリア地域でしか深い響きを発揮しないネッビオーロは、地元の人々の強い誇りとなっています。
ネッビオーロ種のワインの特長は、ブドウのもつ色素が薄いため色合いは比較的薄く、褐色がかった紫色を呈します。
バラの花、トリュフ、プラム、ダークチェリーなど香りは香しく、熟成が進むと干し草、タバコの葉やリコリスなどの香りを捉えることができます。
味わいといえば酸度が高く、たいていタンニン、アルコールいずれもしっかりした、大変重みのあるワインに仕上がります。
ネッビオーロのワインの中でも特にバローロ、バルバレスコには熟成段階の樽の使い方で議論が絶えないところがあります。大樽(Botteボッテ)かバリックかで味わい、最適な熟成期間が大きく違っていきます。それがまたバローロ、バルバレスコファンの気をそそることにもなります。


おすすめのネッビオーロ生産者

ジュゼッペ・マスカレッロ
(Giuseppe Mascarello)

伝統的な造り手ですが、細部まですっきりと鮮やかでやがてしっかりとした果実味や心地よい渋みが捉えられるでしょう。懐古主義に安住せず、収量をおさえ細心周到な造りはきっと飲み手にも伝わるワインです。中でもおすすめは単一畑のモンプリヴァートで、ジュゼッペマスカレッロを代表するワインです。

ブルーノ・ジャコーザ
(Bruno Giacosa)

伝統派バローロの造り手として有名です。ブルーノ・ジャコーザのバローロは新樽を一切使わず求道的な厳しさを実践して造られます。グローバルな醸造技術で均一的な味わいのワインが特に高く評価されている現在の日本のマーケットにおいて、ピエモンテの伝統的なワイン造りを守りつづける価値と意義を疑うのであれば、10年以上寝かせたブルーノ・ジャコーザのワインを飲むことをおすすめします。探して飲む価値はあります。

ジャコモ・ボルゴーニョ
(Giacomo Borgogno)

統一イタリア前からの1761年設立で、歴史があり世界的にも高名な造り手です。1967年にチェザーレ・ボルゴーニョによって今のジャコモ・ボルゴーニョの名前へと変更されました。ジャコモ・ボルゴーニョは長い歴史を受け継ぎ、伝統を重んじた高品質なバローロを生産しています。すべての商品は自社畑のブドウでのみ生産します。前述の通り歴史が古いため、比較的60年代や70年代などの古酒が市場に出ているので、ネッビオーロ古酒をお探しであればボルゴーニョは外せません。

私がイタリアへ訪問したのは2016年でした。その時、醸造家の方々が揃えて話していたのは2016年の作柄。「ピエモンテ州は稀にみる最良の年」とのことです。因みにフランスのブルゴーニュ地方は近年例がないほど収穫量が少ない年でした。それでもブドウ自体の品質は良質であるので、さらに高騰して市場に出回ると思われます。それに対し、北イタリアピエモンテ州は、収穫量も十分で品質も最高位、価格もブルゴーニュの高級ワインに比べると安定しています。単一畑のワインの高騰に辟易している方には、一度ピエモンテ州のネッビオーロのワインを飲んでいただくのもおすすめです。
ランゲの丘陵に生まれるネッビオーロであってもバローロやバルバレスコの地区内以外のものは、ネッビオーロ・ダルバという規制名称でひとくくりにされます。また、バローロ、バルバレスコの名前でワインを出荷したくない時はネッビオーロ・ダルバの呼称にワインを格下げすることができます。特に名声の維持に努める一流の生産者らの間ではこの傾向が強いです。優れたネッビオーロ・ダルバはベリー系の果実やタール、ハーブなどの香りが顕著で優品です。バローロ、バルバレスコに比べれば程々ですが2016年を試すのであれば十分なはずです。2016年のバローロ・バルバレスコは法律上の出荷できる熟成年数に届いていないのでまだ市場に出すことができません。若くして愉しめるネッビオーロ・ダルバなら日本でも購入できますのでぜひ2016年を試してみてください。


ネッビオーロに合うおすすめ料理

赤ワインと肉料理は欠かせない組み合わせであり、ネッビオーロ種の赤ワインとお肉料理も例外ではありません。 上質のネッビオーロ、特にバローロ、バルバレスは現地の人々は特別な日に、ごちそうと一緒に愉しむワインだと聞いております。ピエモンテ州は食の宝庫でもありますので、ネッビオーロのワインに合うピエモンテの郷土料理を紹介したいと思います。

ヴィッテロトンナート

名前の通り茹でた仔牛肉を冷ましてツナソースを添えた冷前菜です。
タンパクな仔牛肉と酸味の効いたツナソースは、若めのネッビオーロや同じく若めのゲンメ(Ghemme)D.O.C.Gなどがおすすめです。

カルネ・クルーダ

ピエモンテ州のタルタルステーキでバリエーションは様々ですが、特に秋のトリュフのスライスを載せた贅沢な一品は、程よく寝かせたバローロ、バルバレスコとお愉しみいただけます。

ブラザート

冬のお愉しみでブラザートもあります。牛肉で一番柔らかい部分を赤ワインに何日か漬け込み、香味草、仕上げにネッビオーロのワインを注いで全体を煮込むとさらにおいしくなります。

チーズ各種

イタリアはチーズの宝庫でもあります。おすすめは熟成したカステルマーニョ(Castelmagno)です。牛乳と山羊の乳の混乳が原料で複雑な風味と独特の食感が特徴です。
贅沢なイタリアのチーズで名前が挙げられるのはパルミジャーノ・レッジャーノ(Parmigiano Reggiano)ですが、こちらも熟成が進んだ3年熟成した一品は別格な味わいがあります。


まとめ

「イタリア人の郷土愛、土地柄に寄せる深い愛着」はカンパニリズモといいます。カンパニリズモの精神はイタリアワイン造りに必須です。イタリアのカンパニリズモは、無分別で偏狭な郷土愛を超越したなにかしら本質的なものを表現するのが上手な人達の精神でもあります。その結果、流行遅れの場所で古くから伝わるブドウ品種に一身をささげつくす。それが古臭いことだなどとは全く気にかけない、誇らしげに自分達の土地でとれたものを食す。イタリア人にとってそうすることが愛してやまないカンパリニズモの現実の愉しみ方のようです。
カンパニリズモのおかげでイタリアワインにはワインの世界で言う国際品種にはない個性と愉しさが溢れています。3,000年の歴史といわれるイタリアワインですが、私たちが知るイタリアワインが形成されたのは実はここ30年ほどの話で、イタリアでは大不況や世界大戦により、多くのワインが安くてそれなりにおいしいワインというイメージから抜け出すことはできず、永久二軍の地位に甘んじていました。現在は、古代イタリアに与えられたエノトリアの名に相応しい栄光を取り戻そうと急速な近代化を進め、高品質ワインを見事に実現しました。イタリアワインは長い歴史を誇ると同時に若いワインとも言えます。グローバル・スタンダードの基準で選ばれた現代風に洗練された有名なワインも素晴らしいですが、そこばかり注目すると各地方の風土や農村文化に根差した多様で個性的なワインを見逃してしまいます。イタリア国内には335種類もの土着のブドウ品種が確認されています。これは間違いなく世界一の数です。古代から一貫した歴史があり、土地に愛され、時にはどこか雑多でも料理と歩んできたイタリアワインだからこそ、いまだに飲む度に新しい発見や感動があるのだと思います。


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