お菓子に使う材料の中で、風味を高めるうえで欠かせない材料がお酒です。洋菓子によく使用されるお酒には、ラム酒、ウイスキー、ブランデー、ワインなどがありますが、その中でもラム酒は特に洋菓子と相性が良いとされています。そんなラム酒を使ったお菓子についてご紹介いたします。

シェフパティシエ 中村 和史

1986年ホテルオークラ東京入社。
デリカテッセンに並ぶペストリーのほか、レストランやご宴会・ウエディングなど館内で提供される洋菓子全般を担当。
シェフパティシエ就任後は「伝統と革新」をテーマに、お客様に喜ばれる洋菓子を提供すべく、日々研鑽を重ねている。


ラム酒をお菓子に使う理由

ラム酒とは

17世紀頃より主にカリブ海周辺で生産されているラム酒は、サトウキビから砂糖を精製分離した際の副産物である廃糖蜜(モラセス)やサトウキビの絞り汁を原料とする蒸留酒です。甘さと苦味があり、カラメルのような濃厚な風味を持つため、モヒートやダイキリといったカクテルに使われるだけでなく、お菓子の味付けや香り付けにも最適で、ドライフルーツの保存にもよく使われます。色や香りの強さと製法によって分類され、無色透明の「ホワイト・ラム」、薄い褐色の「ゴールド・ラム」、濃い褐色の「ダーク・ラム」があります。

ラム酒をお菓子作りに使うメリット

◇味や食感をまろやかにする◇

ラム酒を入れることにより上品な甘さと苦味が出せるうえに、しっとりと滑らかな舌触りになります。

◇香りを良くする◇

お菓子にラム酒の香りが付き、深い味わいが出るため、お菓子に高級感を出すことができます。

◇保存性を高める◇

アルコールの殺菌力により食品の保存性を高められます。ドライフルーツの漬け込みによく利用されるのは、この保存性の高さを利用しているためです。チョコレートやアイスクリームなどに利用されているラムレーズンも、レーズンをラム酒に漬け、保存性を高めた食品です。

おすすめのラム酒入りお菓子のレシピ

ラム酒を使って深みのある味わいを引き出す「ガトーノア」のレシピをご紹介いたします。

ガトーノア

【材料】

卵(全卵Mサイズ)…5個

粉糖…215g

はちみつ…37.5g

強力粉…190g

コーンスターチ…12.5g

ベーキングパウダー…10g

無塩バター…250g

ラム酒…25g

クルミ…適量

【下準備】

・卵、粉糖、はちみつを合わせて、ミキサーボールに入れて中低速で15分間穏やかに立てます。

・強力粉、コーンスターチ、ベーキングパウダーはすべて混ぜ合わせて、ふるいにかけておきます。

・皮を剥いたクルミを軽くローストして、粗く刻んでおきます。

・バターは室温でマヨネーズ程度の固さにしてから、ラム酒を加えてよく混ぜます。そこに、用意しておいたクルミを加えます。

【作り方】

・卵、粉糖、はちみつの生地に、ふるいにかけておいた強力粉、コーンスターチ、ベーキングパウダーを加えて優しくダマの無いように混ぜます。

・バターにラム酒とクルミを加えたものを生地に少しずつ加え、むらなく混ぜ合わせたら、焼成用の型に生地を流しこみます。

・180℃に予熱したオーブンで40分程度焼成します。

・焼成後すぐに、粉糖50gとラム酒25g(どちらも分量外)を混ぜ合わせたシロップをたっぷりと塗ります。その後、少し寝かすとしっとりとしておいしく頂けます。

ホテルオークラ東京のラム酒を使ったお菓子

ラム酒を使うケーキはいくつかありますが、代表的なもののひとつに「シュークリーム」があります。
ラム酒を加えたカスタードクリームをシュー皮にたっぷりと絞り込みます。その上に、ホテル開業時から変わらない配合で立てたホイップクリームをたっぷり絞り、最後にシュー皮で蓋をします。最近はこのように2つのクリームをあえて別々に絞る二段方式は珍しくなりました。
もうひとつ、息の長いケーキに「モンブラン」があります。
マロンペーストにラム酒を加えており、その量はやや多めです。ホテルオークラ東京の場合、通常のケーキに使用するお酒の量はアルコール度数に換算して1%未満ですが、モンブランは1%を少し上回ります。これにより、マロンペーストの甘さを引き締めるとともに、ラム酒の香りをしっかりと感じさせることができます。ラム酒の香りと香ばしい栗の甘みのハーモニーが人気の秘訣かも知れません。

このほか、昔からのクリスマスケーキである、「ブッシュ・ド・ノエル・モカ」、「ブッシュ・ド・ノエル・チョコレート」や「ガトーカルソ」といったケーキのシロップにも、ラム酒を用いています。
洋菓子に使用するお酒は、全体を引き締め、豊かな味わい、深みのある甘みを出すなど、その効力は計り知れないものがあります。しかし、最近はアルコールを含まないケーキを求められることが多くなり、ノンアルコールのラム酒シロップという商品まで生まれました。お酒を用いなくなり、パティシエの技量がさらに求められる時代になりました。

ラム酒入りお菓子の注意点

食べた後の車の運転は控えましょう

お酒入りのお菓子を食べた後、呼気に微量のアルコールが含まれます。呼気から1ℓあたり0.15mg以上のアルコールが検出されると、酒気帯び状態となります。アルコール入りのお菓子を食べた後の運転は控えましょう。

妊娠中や授乳中の人はアルコール量に注意しましょう

妊娠中の方がアルコールを摂取すると、胎児に影響を与えるおそれがあります。アルコール含有量1%未満であれば、一般的に大きな問題はないとされていますが、成分表示をよく確認しましょう。
授乳中の人がアルコールを摂取した後は、アルコールが抜けるまで十分に時間をあけるようにしましょう。

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