ビスキュイとは?
美味しいレシピのポイントとジェノワーズとの違い
ビスケットの語源でもあるビスキュイは、スポンジ生地を指します。特に、卵を別立て(卵黄と卵白を別々に泡立てること)で作るものを指すことが一般的ですが、スポンジ生地全般を指す場合もあります。 軽くてふんわりとした食感のビスキュイはクリームやフルーツとの相性も良く、さまざまな洋菓子に使用されていますが、特にティラミスやブッセ等に用いるのに適しています。また、焼き菓子としてそのまま愉しむこともできます。そんなビスキュイの由来や作り方、魅力についてご紹介いたします。
シェフパティシエ 中村 和史
1986年ホテルオークラ東京入社。
デリカテッセンに並ぶペストリーのほか、レストランやご宴会・ウエディングなど館内で提供される洋菓子全般を担当。
シェフパティシエ就任後は「伝統と革新」をテーマに、お客様に喜ばれる洋菓子を提供すべく、日々研鑽を重ねている。
ビスキュイとは?
ビスキュイの意味
「ビスキュイ」は、広い意味ではスポンジ生地全般のことを、狭い意味では別立て法で作られたスポンジ生地のことをいいます。正式名称をパータ・ビスキュイといいますが、パータとはフランス語で「生地」、「ペースト」を意味する言葉です。別立て法とは、卵黄と卵白を別々に泡立てる製菓技術のことで、一緒に泡立てる共立て法に比べて、ふんわりとした軽い食感に焼き上がるという特徴があります。ちなみに、共立て法で作ったスポンジ生地はパータ・ジェノワーズと呼ばれます。
ビスキュイはフランス語で、スペリングは「biscuit」とつづります。「bis」が「二度」、「cuit」が「焼く」を意味しており、ビスキュイの前身となる食べ物は軍隊用・航海用の保存食として使用されていました。二度焼くことによって水分量を少なくし、保存性を高めていたのです。イメージとしては日本の乾パンに近く、古代ローマ帝国の頃にはすでに存在していたとされています。
現在のようなお菓子の生地としての起源は、16世紀のフランスに遡ります。イタリアのメディチ家出身のカトリーヌ・ド・メディシスがフランスのアンリ2世のもとに嫁ぐ際に、マカロンやシャーベットなどとともにイタリアからフランスに持ち込んだといわれています。
ビスキュイとジェノワーズの違い
お菓子用のスポンジ生地にはビスキュイの他に、共立て法で作るジェノワーズがあります。「ジェノバ(イタリアの都市)風」という意味です。卵の泡立て方以外にも、材料・食感・焼き方・用途に違いがあります。
材料
小麦粉・卵・砂糖は共通する材料ですが、ジェノワーズはこれにバターなどの油脂を加えます。ビスキュイには油脂を入れません。
食感
ジェノワーズはきめが細かくしっとりとしていますが、ビスキュイは気泡が多くふんわりとした軽い食感になります。
焼き方
ジェノワーズは生地に流動性があるので、型に流し込んで焼きます。ビスキュイは生地が固く、絞り出して焼きます。
用途
ジェノワーズは、ショートケーキやロールケーキなどしっとりとした食感のスポンジ生地に向いており、ビスキュイはティラミスやブッセなどに向いています。一般的なロールケーキに向いているのはジェノワーズですが、新鮮なフルーツをスポンジ生地で巻くフルーツロールには、ビスキュイをベースに柔らかく仕上げたスポンジ生地を使用します。
ただし、スポンジ生地全般のことをビスキュイと呼ぶこともあり、必ずしも明確に区別されているわけではありません。
また、ビスケットやクッキーなどの焼き菓子をビスキュイと呼ぶこともあるため、注意が必要です。ビスキュイを棒状にして焼いたお菓子のことを「ビスキュイ・フィンガー」もしくは「ビスキュイ・ア・ラ・キュイエール」といいますが、これを単に「ビスキュイ」と呼ぶこともあるので、このお菓子のことをビスキュイと認識されている方も多いかもしれません。キュイエールとはスプーンのことで、そのまま食べるだけでなく、アイスクリームに添えてアイスクリームをすくって食べることもあります。
他に、チョコレート(ガトー)を生地に混ぜ込んだチョコレートビスキュイや、アーモンドの粉末を加えて作ったビスキュイジョコンド、クリーム(クレーム)をビスキュイにサンドしたクレームビスキュイなどがパティスリーやカフェで販売されています。
ビスキュイのレシピ
【材料】
直径1.5㎝の丸口金を使用し、約8㎝長に絞りだした場合:240本分
鶏卵(Mサイズ)…12個
※卵黄と卵白に分けておきます。
グラニュー糖…300g
薄力粉…360g
【作り方】
1.卵白12個分にグラニュー糖300gを加えてメレンゲを立てます。
2.メレンゲに卵黄12個分を加えて、さっと混ぜ合わせます。
3.薄力粉360gを篩って、2にゆっくりと加えながら優しく混ぜ合わせます。
あらかじめ180度に熱したオーブンで、約20分程度を目安に生地の焼き上がりを確認しながら焼いていきます。
※温度は一般的なオーブンでの目安です。
【ポイント】
・メレンゲはしっかりと角が立つ程度に立てておき、それをベースに卵黄と薄力粉を加えていきます。混ぜ合わせ過ぎると生地が緩むため、鉄板に絞り出す際に思うような大きさにならず広がってしまいます。メレンゲを立てる際はホイッパーで混ぜ、その後ヘラで優しくできる限り少ない動きで混ぜてください。
・卵の風味が強い場合は、バニラエッセンスなどをほんの数滴入れてみるとまろやかになります。
ビスキュイ生地を使ったお菓子
◇ビスキュイ・フィンガー(ビスキュイ・ア・ラ・キュイエール)
オークラの日本料理 山里やオールデイダイニング オーキッド、中国料理 桃花林では、アイスクリームをご注文いただく際にビスキュイ・フィンガーを添えてご提供しています。
◇シャルロット・フレーズ
セルクルリング(ステンレス製で底のない丸い型)の内側にビスキュイ・フィンガーを縦に並べておき、丸く円盤状に焼成したビスキュイを土台として置きます。いちごのムースを作り、セルクルリングの型に流し込みます。冷蔵庫で冷やして固めた後に型を外し、赤いリボンを巻いてビスキュイ・フィンガーが外れないようにします。規則的に突き出たビスキュイがデザインのアクセントとなります。
◇ティラミス
ティラミスに使用する場合もビスキュイ・フィンガーを選びます。ビスキュイ・フィンガーは、焼き上がった状態は少し硬めですが、水分を染み込ませても形状を保ちやすく、しかもエスプレッソコーヒーがたっぷり染み込みます。そのため、とても口どけの良い仕上がりになります。共立ての生地の場合、同じように染み込ませても口どけが悪く、クリーミーなティラミスと相性が悪いことから、別立て生地を使用するのがポイントです。
時代も場所も超えて愛されるビスキュイ
ビスキュイは、ケーキの生地や焼き菓子として、幅広く利用されています。アメリカで名付けられた「スポンジ」という名称はどこか味気ない感じがしますが、16世紀のフランスに想いを馳せながらビスキュイのふんわりとした食感と味わいを愉しんでいただくと、より贅沢な時間が過ごせるのではないでしょうか?
さまざまなケーキやお菓子と相性の良いビスキュイは、時代も場所も超えて、今日も世界中で愛されています。