“Jardin de la France”(フランスの庭園)― 敬意と愛情を込めてフランス人はロワール地方をこう呼んでいます。フランス国民が自慢に思う、美しい土地だからです。パリ・モンパルナスからTGVで約2時間。トゥールの駅から車で数分、ロワール川のほとりに着けば、いやが上にも気分は高まるでしょう。ボルドーでもブルゴーニュでもなく、ロワールワインを愉しんでみるのはいかがでしょうか。

ソムリエ:大出 剛広

A.S.I. Sommelier Diploma(国際ソムリエ協会認定資格)を保有し、多数のソムリエコンクールに入賞経験を持つ。
特定の得意分野がないほど、ワインに関する幅広いジャンルに精通。


ロワールワインとは

フランス・ロワール川周辺から収穫されたブドウで造られたワインで、この地域ではフレッシュでさわやかな白ワインを筆頭に様々なタイプのワインを生産しています。ロワール川は、フランスのほぼ中央、セントラル山脈に源流を発し大西洋まで流れ込む川で、その距離約1,000キロメートル。その流域周辺にはブドウ畑だけでなく、歴史を感じさせる古城も多く立ち並んでいます。その風光明媚な景観は観光スポットとしても有名で、「フランスの庭園」と呼ばれる由縁でもあります。この地域で造られるワインは赤、白、ロゼ、そしてスパークリングまで幅広く、味わいもさまざま。非常に広大なエリアのため、土壌の性質も違えば天候も違い、植えられているブドウの品種も違います。高級ワインは少ないものの、ロワールワインは世界的なワインのひとつといえるでしょう。高級ワインではなくとも、カジュアルに愉しめるワインがロワールワインを有名にしているのです。

軽やかでフレッシュな白ワインを生産

ブルゴーニュの白ワインとロワールワインを比べてみましょう。ブルゴーニュの白ワインといえばシャルドネを誰でも思い浮かべますし、その味わいも重厚なものが多い傾向があります。一方、ロワールワインはこれと言って単一の品種が思い浮かばない方が多いのではないでしょうか。しかし味わいについては一般的に軽やかでフレッシュなものが多いといえます。ロワールワインはさまざまな品種が存在しながらも、気軽に愉しめるタイプが多いことが特徴です。

代表的なロワールワイン

ペイ・ナンテ地区

世界史をかじったことのある方ならすぐにピンときたかもしれませんが、有名なナントの街がある地区がペイ・ナンテです。ロワール川河口に近いナント市は穏やかな気候で、市街の周囲を広大なブドウ畑が取り囲んでいます。この地区ではシュール・リー製法と呼ばれる独特の製法によってフレッシュなミュスカデが生産されています。海が近いこともあり、軽いタイプのミュスカデはシーフードプラッターや生牡蛎との相性が特に良く、現地でもそのように愉しまれています。

アンジュ・ソーミュール地区

ペイ・ナンテ地区から東へ向かうと、ロワール川中流に位置するアンジュ・ソーミュール地区が現れます。あまりにも有名なやや甘口のロゼダンジュはこの地の特産ワインですが、赤ワインと白ワインも生産されています。白ワインは肉厚でややボリューム感のあるタイプが多く、これはシュナン・ブランという品種の個性とも言えるもので、カリンやはちみつのニュアンスを感じさせます。赤ワインはガメイとカベルネ・フランが多く植えられており、白ワインほどの素晴らしさはないものの、適度な酸味とタンニンを兼ね備えたワインは一度試してみる価値があります。リヨンをサラダ風にアレンジした一皿にはこの地のワインが好相性。中でもアンジュと名のついた白とロゼ、それにソミュール・シャンピニィという名の赤がおすすめです。

トゥーレーヌ地区

アンジュ・ソーミュール地区からさらに東へ向かうと中世のルネッサンスの舞台となったトゥーレーヌ地区に入ります。シャンボールやシュノンソーなど名高いシャトーが建つのもこの地。レオナルド・ダ・ヴィンチが晩年を過ごしたことでもよく知られています。トゥーレーヌ地区で植えられているブドウはアンジュ・ソーミュール地区とほぼ同じですが、気候が比較的涼しいため、ワインの味わいには少し差が生まれます。この地区のAOCの内、アンジュよりもややシャープなシュナン・ブランはヴーヴレから、スミレの花のようなニュアンスの赤はシノンやブルグイユから生産されます。この土地の赤ワインで煮込んだ鰻料理にはシノンが最適で、シャープな性質でありながら甘口も造るヴーヴレにはタルトタタンがぴったりです。

サントル・ニヴェルネ地区

トゥーレーヌ地区を過ぎると、ロワール川は向きを90度変え、まるでジェットコースターのように南へ曲がっています。ロワール川最上流域に位置するサントル・ニヴェルネ地区は、サンセールとプイィフュメという著名ワインの二大産地を抱えています。この土地で造られるソーヴィニヨン・ブランからの白ワインは世界中のソーヴィニヨン・ブラン生産者のベンチマークであり、憧れでもあります。上品なグリーンノートと柑橘系のニュアンスのバランスがよくとれた辛口のワインで、さわやかな香りがこの土地名産の山羊のチーズと絶妙にマッチします。サンセールではピノ・ノワールから赤ワインも造っており、ブルゴーニュの赤ワインでは高級すぎると感じるようなカジュアルなシーンに適しています。

まとめ

ボルドーやブルゴーニュのグランヴァンであれば、ワイン愛好家の皆が美味しいと言うでしょう。ワイン単体で愉しめるので、そこに料理がなくても問題ありません。ロワールワインの場合は、なかなかそうはいきません。もしかすると酸っぱいだけと言われてしまいそうなミュスカデや、もしかすると茎っぽいと言われてしまいそうなシノンも、料理と一緒に味わうことで表情を一変させます。酸っぱいと思っていたミュスカデの酸がレモンの代わりに牡蛎を美味しくし、シノンの茎っぽさがまるで山椒のように鰻料理のアクセントになるのです。ロワールワインは、フードフレンドリーなワイン。レストランでワインと料理の相性を考えるのはソムリエの仕事ですが、もし料理一品一品に自分でワインを選ぶことのできるレストランへ行く機会があったら、ぜひロワールワインも選択肢の一つに入れてみてください。


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